雪に消えたクリスマス

「…ねぇ、おばあちゃん…。私、おばあちゃんの初恋の人との話。何回聞いても、また話してってせがんだわよね…。私、おばあちゃんの恋愛話聞きながら、おばあちゃんの語る初恋の人に恋してた…。だから、子供ができて、もし男の子だったら、創真ってつけようって、心に決めて…。その創真が、『ウララ』って言ったのよ…。創真はおばあちゃんの存在すら知らないでしょうに…。これって偶然かしら?『ウララ』って、今では私しか知らない、おばあちゃんのあだ名なのに…。ねぇ、麗おばあちゃん………」
 それは、雪香の単なる独り言だったのか?それとも、今は亡き祖母との会話だったのか…?本当のところは、雪香自信にもよく分からなかった。
 只、見上げた空はどこまでも広く、その色は、どこまでも高く青くて…話しかけたら、不意に、答えが返ってきそうな、そんな空だったから…。
 少し冷たい風が、雪香の髪の間をサラサラと流れてゆく。
 空を見上げる雪香の視界に、一瞬、白いモノが横切った。
「雪?………そんなわけ…ないわよね?きっと花弁が、光を反射して、白く見えただけだわ…」
 もう、寒い冬は、過ぎ去りし遠い過去になりつつある。
 花は咲き乱れ、やがて散り、風は、新しい季節を運んでくるだろう…。
 そして、戻る事を知らない時間は、新しい命を誕生させる。
 しかし、時間は、人の記憶の中にだけ、その姿を少し、とどめておくことができる。
 その記憶も、やがては消えていくものなのかもしれない。
 だが、悲しんではいけない、それが自然の理なのだから…。
 そう…あの、雪に消えたクリスマスのように…。