雪に消えたクリスマス

 視線を、丘から進行方向に向けた時、目の前に何やら黒い物体が現れて、俺は急ブレーキをかけたんだ…。
 その、黒い物体は、猫だった。
 捨てられたのか、迷ったのか、まだ小さな猫だ。
 俺には、この猫を跳ねる事などできなかった。
 凍った路面の上…それもバイクでの急ブレーキは、ほとんど自殺行為だ。
 しかし、俺はそれでもなんとかなるという自信があった…。
 キ、キィーッ!
 思惑通り、後輪がロックして、車体が大きくスリップを始める。
 俺は、バランスを崩しかけるが、アクセル・グリップを捻り、バイクでドリフトをする形で体制を整える。
 これで、俺は猫を跳ねる事も、自分が転ぶ事もなく、只、少しヒヤッとした経験をしたという、笑い話のタネになる筈だった。
 ドンッ!!  
 鈍い音がした。
 人気のない、くねった山道…しかも、その日は雪が降っていた。
 対向車など、いる筈がないと思っていた。
 次の瞬間、俺の体は宙を舞って、林の中へと放り出される。
 ドサッ…という、俺の体が地面に叩きつけられる音。
 その時、不思議と痛みはなかった…。
 相手はトラックだ。
 三トンはあるような、巨大なトラックに、高々250㏄の単車が、かなう筈がない。
 トラックの運転手は、驚いてトラックから出て来たが、辺りを伺うと、俺の体を林の奥の方へ引きずっていき、バイクは、そのままトラックに乗せると、さっさとどこかへ行ってしまった。
 これを、俗にひき逃げというんだな…と、俺は力無く笑った…。
 白い吐息が、視界を塞ぐ。
 吐息が視界を塞ぐのは、俺が仰向けだからだ。
 体が凍るように寒いのは、雪の中に埋もれているから…。
 いくら待っても、救急車などは来ない。
 あの時、俺を跳ねたトラックの運転手が、気を利かして救急車の一つも呼んでくれたら、俺は助かっていただろうか?
 もし救急車が来ていたら、俺は今頃病院で、少し神経質な医者に手術を受けている頃だ。