雪に消えたクリスマス

「…その、目的ってやつはよく分からんが、だとすると、その目的が達成されなければ、俺はずっとこっちにいられるってわけか?」
 俺の問いに、玲は無慈悲にも首を横に振った。
「先ほども言いましたが、霊体は非常に脆いんです。遅かれ早かれ、創真君はもうすぐこっちにはいられなくなります…」
 つまり、あまり時間は残されてないってわけか…。
 そう言えば、タクシー・ドライバーも、そんなような事を言っていた。
 俺は、大きなため息をついて、ジッと考えていた。
 勿論、考えたからといって、その目的とやらが分かるわけでもなかったが、『目的』という言葉に、何かが引っかかった。
「創真君は、亡くなった瞬間…もしくはその少し前辺りの記憶というのは覚えていらっしゃいますか?二年前、創真君は何をしていたのか?覚えてはいませんか?」
 二年前………?
 二年前、俺は………。
 その時、不意に雪が降ってきた。
「雪………?そうだ。あの日は、雪が降っていた…」
 息が白い…。
 吐いた自分の息が、視界を覆う。
 風が強く吹いている…。
 風が強いのは、バイクに乗っているからだ。
 始めて通った山道を、猛スピードで跳ばしている。
 あの日、雪で視界が悪くて、路面も凍って滑りやすかった。
 でも、あの日は、早く帰りたくて…早くウララに会いたくて…。
 俺の背中に背負ったバッグに入ったモノが、俺を余計に早く帰るようにと急かしていた。
 俺は、少し無理だと思いつつ、アクセル・グリップを更に捻った…。
 曲がりくねった山道を走っていると、頂上に丘があって、そこに一本だけ大きな桜の木がある。
 そこから街を見下ろしたら、きっと凄く綺麗なんだろうなぁ…。
 俺はそんな事を考えて、一瞬だけ、目線を丘の方へ向けた。
 ホンの一瞬の間だった。