ところが、こんなオレのチカラを

いとも簡単に見抜いた『女(ひと)』がいた


日村 令子(ひむら れいこ)


オレが高校3年の時『教育実習』で

オレの通っている高校に来た女性だった

今思い出しても

ゾクッとする

あの…

『視線』・・・

一瞬で相手を『見透かした』かのような目…

不敵な笑み

オレが生まれて初めて『ビビッた』相手だった

もちろんあの後も

『あのひと』を抜くヤツはいない…








全校集会

校長の話

教育実習生の紹介…


『あのひと』は全校生徒の中で

オレ以外の生徒には目も向けず

ひたすらオレだけを『じっ』と見ていた


オレは時々目を反らしながら そのひとに目を戻すと

やはりオレを見ている…


十分オレを眺めて 気が済んだのか

「ふっ」とうすら笑って

一度下に視線をやり

…それから正面に目を戻した

オレにはそれが すごく

『イヤなカンジ』だった


そんな女性

日村令子と

はじめて言葉を交わした


オレの母親が その日たまたま寝坊して『弁当』が作れないことがあった

昼食をパンにしてくれと 母親から『千円』を渡されたのだ


その月の小遣いを 使い果たしてしまっていたオレは

その日の昼食を抜こうか
他の奴から少し分けてもらおうか
またはパン1個にしようか…

悩みながら 校舎の廊下を歩いていた



「全部使っていいわよ」


声…というより

言いようのない空気にオレは目を見開きながら

振り返った


日村…令子…