わざわざ 面倒な事に 首を突っ込まなくても

『生きていける』さ


そして オレにはもう一つ 不安があった


もし この先に 日村 令子がすでに居たとして…

そこで 『知る事』が 

これからの オレの人生を

『狂わせる』ような 出来事になったとしたら…


オレは 全て投げ出したくなった


足を 今から下る方向と 逆に向けた


その時


『全部使っていいわよ』


まただ… 

オレは振り返った


しかし


振り返ったオレの視線の先には

日村 令子が立っていた


「日村…先生…」


長い黒髪が 朝の空気を吸って

一層 しっとりとして見えた


「全部使いなさい

  あなたの 勇気」


そう言うと さっと方向を変え

昨日の あの『恐怖の場所』へと

さっさと 下りていった


『勇気…』


オレは 少しずつ小さくなる

日村 令子の 白い後ろ姿を見ながら

さっそうと歩くリズムに合わせて

揺れる髪を 眺めながら


オレの中に存在する

やっとの『勇気』を ふり絞った


そして 日村 令子に追いつくべく

小走りで 山道を下った