「いやっ あの・・それが・・・いつになるか 分かりません・・・」


この時オレは 記憶の遠いところから 何かを呼び戻していた

この落ち着いた声のカンジに 耳が慣れている気がした


「・・・松永さん どうかなさったんですか?」


電話の相手は 淡々と尋ねてきた


「実はさっき 彼女 外で倒れて 今 病院なんですけど まだ意識が戻っていないんです」


「・・・・・」


電話の主は また黙った


「あの・・・気が付いたら 用件を伝えておきますけど・・・」



「・・・ええ じゃあ お願いします」


「はい・・・」


オレは この後 思いがけない名前を耳にする


「明日の 講義が30分遅く始まることに決まったので

松永さんにご連絡したのですが そのご様子では 明日の講義は無理でしょうね

ゆっくり お休みくださいと お伝えください」



「わかりました あっお名前を伺ってよろしいですか?」


相手が丁寧なので オレも社会人らしく丁寧に返した


「日村です」


「えっ・・・」


オレの 遠くにあった記憶が 一気に前に押し出された

この落ち着いた声の感じ 口調・・・


「松永さんを担当してます 日村 令子です」


オレは たった今 100トンハンマーで 頭をぶたれたような

そんな衝撃に 打ちひしがれていた