その頃から 樹花との関係もギクシャクし

オレは 同棲していた部屋に

徐々に戻らなくなっていた


バイト先で徹夜も珍しくなかったというのもあったが

あとは 実家か長谷川のアパートによく泊まっていた


部屋に戻るのも 樹花が 仕事に行ってる間に戻って

着替えとかを取りに行っていた


別になにも 樹花を嫌いになったとか 重くなったとか

そんなことではなかった


ただ 半年前のオレは 『霊能力者』という自分の『存在』を

抱えきれないでいた

それが オレを苦しめ 樹花にも優しく出来る状態じゃなかったので

わざと 樹花を 『避けて』いたのだ

こんな ふがいないオレのために  樹花を苦しめたくない・・・

ただ それだけだった


それが かえって樹花を苦しめ 昨日の発作にまで及ばせてしまった


あの時・・・日村先生に啖呵を切った『自分なりに』など

偉そうに言い放った自分が 惨めでならなかった


「だからね 私 もう死んだって悔いは 残らないと思うよ」


樹花が 話しを続けた


「きっと ピアニストになれなかった事も 神様が気を利かせてくれてたと思うんだ

もし ピアニストになれてたら もっと世界中で弾いてみたとか 

もっと 沢山の人に聞いてもらいたい!とか いっぱい欲張っちゃってて

きっと『死んでも死にきれない』くらい 悔しい思いしてたんだろうなぁ…って

だから 神様が早い段階で 諦めさせてくれてたんだよ でもね・・・」


「でも?」


「その代わり『ピカちゃん』に会わせてもらえた」


「会わせてもらった?」


オレは 思考回路がショートしたかのように 樹花の言葉尻を復唱するしかなかった


「うん! 一生で一番大切な人と巡り合わせてもらった

この事が・・・

きっとピカちゃんに会うことが 私の『この世』でやるべきことだったんだって思ってる

そして 何よりのプレゼントだと思ってる」


「・・なんだよそれ・・・」