オレは 驚いて 振り返った

坂本の 母親だった

いつの間にか 坂本のうめき声も 止まっていた


「日村先生・・・私・・・着替えを取りに帰って来ても・・・いいでしょうか・・・」


坂本の母親は 人間だが まるで 『幽霊』のようだった

そういえば 昨日から 同じ服装で 髪もとかしてない

化粧っけもなく 目の下の『くま』は深かった


「どうぞ 私が付き添っていますから ゆっくりお風呂に入られたり

おうちの事もなさって来て下さい」


「はい・・・では・・・お願いします・・・」


坂本の母親は 坂本が鎮痛剤で ようやく 安定して眠ったのを確認し

日村 令子に 看病を頼みに来たようだ


「あ・・・それから・・・奥村さん・・・」


今度は オレが呼ばれた


「は・・・い」


「あの・・・ここまで 来てもらって 言いづらいんですけど・・・

剛が 『今は誰にも会いたくない』と…特に学校のお友達には『会いたくない』と

申しておりましたので… 病室の方には・・・・」


そこまで言うと


「分かりました 奥村くんには ここで帰ってもらいますので!」


オイオイ!


「そうですか・・・すみません・・・」


坂本の母親は 深々と 日村 令子と オレに 頭を下げると

側のエレベーターで 降りていった


「じゃあ 私は 坂本くんの所へ行くわ

あなたは もう 帰りなさい

どうせ 学校も うまい事言って サボってきたんでしょうから!
 
それじゃ 日曜日は 朝5時に この病院の 玄関の前で 待ってるわ」


日村 令子は そう言って 坂本の病室に入ると 


ピシャッ


と 扉を閉めた