「つよしくーん だいじょうぶ!いま いたみどめのちゅうしゃ うったから

すぐにきくからねーーー」

看護婦が 剛のうめき声を かき消すように おおきな声でなだめていた

パタンッ パタンッ

恐らく 坂本があまりの痛みに耐えきれず 足でベットのマットを蹴っている音だ


「グゥーーーフッ・・グゥーーーッ・・フッ・・ググ・・」


坂本の 泣き声とも うめき声とも 取れる声が 病室から漏れていた


「ウッ・・ウッ・・ウーーーフ・・・ウウウーーーーフッ・・」


オレは それ以上足が進まなかった 

というより 足がすくんだ


オレが 居る間・・・ こんなにまで『苦しい』のをガマンしていたのかと思うと

オレのお節介のセリフなど 今の坂本には 『我慢』する時間を伸ばさせただけの

ただの『拷問』でしかなかった事を 今 この声を聞いて 初めて気づいた


オレは 胸が張り裂けそうだった・・・


オレは 何も分かってない!


全部 上辺だけの 全部 視覚で得た情報からだけの 薄っぺらい知識だけで

偉そうなセリフばかり 並べ立てて オレは オレは 人の『気持ち』なんて

全く分かっていやしなかったんだ


オレは 今まで 何を見てきたんだ・・・


オレの身体から 『メッキ』がはがれ落ちて 中には泥人形で作られたオレ自身が 

現れたようだった


オレは オレは全速力で 来たときと同じように 自転車を飛ばした

ビュンビュン飛ばして 家に帰った

昨日も 今日も 同じ場所で オレは 完全に打ちのめされた


全て無くした・・・


そんな 気持ちだった


家に いつのまにか到着した

玄関を入り 階段を上がろうとすると


「ヒカルー?」


すでに夕飯の支度をすませた母親が オレの名前を呼びながら

パタパタと 走ってきた