「じゃあ 私たちも・・・」

リンコがそう言うと リンコの母親も頷いた


丁度 手術室から最後の片づけを

終えたらしい看護婦が出てきた

その人は たまたま オレが昨日

ナースステーションで ハルの病室を

尋ねた女性だった


「あの・・・」

と 声をかけると

「あら 昨日の・・・」

と あちらもオレの事を すぐに分かったようだ


「今の患者さんの 付き添い?」


「はい・・・」


「そう・・・毎日大変ね 君も」


看護婦は なにかと『災難』に遭遇する

男子高校生を 憐れむ目で見た


「あっ 今の患者さんの身内の方は

もう 病室に行かれたのかしら?」


「はい・・今 エレベーターで

一緒に上がっていきました」


「そう・・・」


看護婦は ちょっと迷った素振りを見せた


「どうしたんですか?」


「あぁ・・・これなんだけど・・・」


そういうと 透明のビニール袋に

キチンと入れられてはあったが

黒く汚れた スニーカーを

ヒョイ と見せた


「坂本の・・・ですか?」


オレは さっき 玄関で坂本を

見送った時の あの 真っ白い

スニーカーと 同じモノとは

思えないくらいに 傷んだ

スニーカーが 事故のむごさを

無言で表現しているように見えた


「まぁ いいわ 私が持っていくわ」


そう言って 看護婦は階段の方へ

向かって行った


「すいません!」