「事故と言っても オレはこの通り

ピンピンしてます ただ・・・

浅川さんは 高野先生と同じ

右足を怪我して この病院に

入院しています」


坂本の母親が この階より上にある

その『患者』の病室を 天井越しに探すかのように

上を見上げて 顔をフラフラさせた


「・・・私の 娘です・・・」


オレの 後ろからの声だった

ハルの 母親は そういうと

こちらへ 近づいてきて オレの

すぐ隣にまで 歩み寄った

坂本の母親は オレの方を見たが

その焦点は オレの方に歩いてきた

ハルの 母親を見ていた


「『呪い』は・・・

いつからか・・・

『無差別』になるものなのかしら・・・」


坂本の 母親は ポツリと そう呟いた


「坂本の お母さん・・・

オレ・・・実は その事故に遭った時

見たんです・・・高野先生を・・・」


坂本の 母親は また 目を見開いたが

今度は 『驚き』で 開いただけだった

ハルの 母親も オレの顔を 横から

覗き込んだ


「先生は 亡くなった今も 気にしていたのは

瓜生くんに 持っていってあげられなかった

『水』の事を 気にされていました

オレに しつこく 『水、水』って

言ってきました

誰かを『恨んでる』なんて

一言も 言っていませんでしたよっ」


オレは 28年前 あの山で

バラバラになってしまった 皆の想いを・・・

『誰かが 誰かを 想って』悲惨な事故に

発展してしまった 原因を・・・

壊れてしまった ガラスを 一片 一片

つなぎ合わせて あげたいと

心から そういう気持ちが

湧き溢れていた