「おう 奥村!」


後ろから ポンとオレの肩を軽く叩いてきたのは

オレと同期入社の長谷川だった


オレたちは 仕事をいったん終え

スーツ姿から 私服に着替え

ライブハウスで 待ち合わせをしていた


ライブには 長谷川の知り合い・・・

というより (ほぼ?)カノジョの

女の子が バンドを組んでいて 今日も出る予定だ


入社して まだ3ヶ月目に入ったばかりだったが

長谷川とは 入社当初から気が合い

お互い ドジばかり踏んで 上司にこっぴどく

怒られるのを 励まし合う仲だった


そんな 長谷川のカノジョのライブに付き合うのも

今日で 2度目だ


「今日は アスカちゃん 何番目?」


「ん? 今日は トップバッター!って言ってたっけ?」

長谷川は 『アスカちゃん』と口にすると

すぐに口元がゆるむ 分かりやすいヤツだ


「オレ あいつの歌聞くと

なんか元気でるんだよな!

おまえもスゲェって思わないか?奥村!!

アスカは絶対プロになって テレビに出て

そんで もっと

沢山の人たちに あいつの歌聞いて

幸せになってもらいたいんだ!」


確か・・・ それは この前 アスカちゃんが

『夢』だと言って 話してたことじゃん

アスカちゃんの『夢』は 長谷川の『夢』か・・・


オレは ふと5年前の 病室で ハルが

『将来の夢』を 語ったことを思い出した


オレは あの時の ハルの『夢』をかなえて

あげてはいない


オレたちは オレがあの病室を飛び出した時から

別々の道を 歩き出したからだ