「久しぶりね・・・何年ぶりかしら」


日村 令子は 入れ立てのジャスミンティーを

来客用のカップと 自分のマグカップに注ぎ終えると

カウンセリング用の デスクの上に

少し 離しめに置いた


「・・7年ぶりです」


オレは 日村 令子が 置いたカップに

視線を向けながら そう答えた


「そっか・・・ もう そんなに経つのね」


日村 令子は まず オレをクライアント用の

革製の座り心地の良いイスに 手の平を差し出して

座らせてから 自分が座るべきイスに 腰を下ろした


長い黒髪も 人を吸い込むような視線も

7年前と何も変わっていなかった


オレは 喋りたい事が山ほどあった

訊きたいことも 沢山・・・

でも どこから切り出したらいいのか・・・


「でも・・・ まさか 『松永さん』の代わりに

奥村君が 来るとは・・・ 思っていなかったけど」


日村 令子は うっすらと笑っている


オレは内心 『ウソつけ!』と 思った

『本当は 全部知っていたんじゃないのか!』

とも 思っていた

でも今は そんな事でやり合っている場合ではないのだ


「はい・・・ オレ・・・いや 僕も偶然・・・」


日村 令子の前では 『偶然』など通用しないことを

思い出した


全ては 必然・・・


『それ』でさえも


『見えないチカラ』に


仕組まれた事・・・


「・・・『松永さん』は どう?」


オレは 黙った

日村 令子に 7年前に言われた言葉

『あなたに 彼女は守れない』

この 言葉が オレの頭の中を よぎっていた


あの頃は ハルの事を 日村 令子は言っていた

だが 7年経った今でも オレは またハルとは別の

『愛する人』を 『守れない』でいた