エピローグ『和歌山県Z』

 窓から見下ろすと、あちこちでビル建設中の幕がはられ、この街が生き返ろうとしているのが確認できる。
ヘリコプターの中、千本松は隣のシートに座った同僚の狩谷に、
「この有様を隠蔽できると思うか?」
と皮肉たっぷりに尋ねた。
「政府はそのつもりだ。我々がとやかく口を挟むことじゃない」
「正気かね?こちらは犠牲者まで出しているんだ」
「ああ、つらいな・・・」
二人はしばらく無言で、ヘリのエンジン音だけを聞きながら眼下の風景を眺めた。
「そういえばな、県の名前が正式に和歌山県Zに決まったらしい。和歌山県知事もまぎらわしい、と憤慨しているし、政府の方も困惑しているが、住民投票で決まったものをまさか覆せまい」
「ふん。多少クスリを使ったところで遺伝子の本質は変えられんさ。いまごろお偉方の困った顔を肴に酒を飲んどるだろうよ、和歌山県Z民はな」
「しかし、本当に言いづらい名称だな」
二人を乗せたヘリコプターは、元・大阪市上空を旋回して、東に向かって飛び去っていった。
天空には太陽が輝いている。それはあの日沈んだ太陽とまったく同じ新しい太陽だった。


    おわり