【先生×生徒シリーズ】壊れるほど抱きしめて―先生の声を聴かせて―




あれだけ集まっていた野次馬はバラバラと徐々にいなくなっていった。


私は阿川先生に支えられるようにベンチに座った。


元カノが座っていたベンチの隣のベンチ。


私と先生が座ったベンチの前に、スーツを着た中年男性が立った。


この人が刑事さん?


男性は、しゃがんで目線を私と同じ高さに合わせた。



「大変だったね。大丈夫?」



男性の言ったことを阿川先生が手話で伝えてくれた。


私はコクンと頷いた。


優しそうで軟らかな笑顔が印象的な男性。


とても刑事さんには見えない。



「先生があんなことになって、ショックな気持ちも大きいと思うけど、少しだけオジサンに話を聞かせてくれないかな?」


『はい……』


「ありがとう。じゃあ……まず、名前と住所と電話番号を教えてくれるかな?」



私はポケットからメモ帳を取り出し、自分の名前と住所と電話番号を書いて刑事さんに見せた。


刑事さんはそれをバインダーに挟んだ紙に書いていく。


それから、先生が刺されるまで、刺された後の話を刑事さんから聞かれた。


それを阿川先生が手話で伝えてくれて、私が手話で言ったことを阿川先生が刑事さんに伝えた。


それを紙に書いていく刑事さん。


そして全て話し終えた後、間違いないか刑事さんが紙に書いたことを読み上げていった。


私は間違いないことを阿川先生に伝え、それを刑事さんに伝えてもらう。



「手間取らせて悪かったね。事情はよくわかった。ありがとう。また何かあったら連絡させてもらうかもしれないけど、今日は帰っていいよ。気をつけて帰るんだよ」



最後まで優しく、私に気を遣ってくれた刑事さん。


私は阿川先生に支えられて、公園を後にした。