「あそこに立ってる黒服に衣装部屋まで案内させるから、貸出しのドレスに着替えてきてね」

言いながら私達の背後に視線を移したママは、大きな声で「春樹《はるき》!」と口にする。


それに釣られて後ろに振り返ると、お客さんがポツリポツリとしかいない大きなホールの前で――背を向けて立っていた黒いスーツを着た金髪の男の人が、クルリと振り返ったのが見えた。


店内の照明が暗くて、顔はよく分からない。


別に顔なんてどうでも良かったけど、夜の世界の“裏方”はどんな人なのか、失礼だけど興味本意で見てみたかった。


こっちに向かってゆっくりと歩いてくる、黒服さん。


私はそれを、目を逸らさず見つめ続ける。