結局、映画が終わるまで千秋は一度も起きなかった。
私の右肩に頭を乗せたまま、気持ち良さそうに眠っていた。
「ごめんね。暗いから眠っちゃった。肩、痛くない?」
職場へと向かう車中――楽しそうに笑いながら、そう問い掛けてくる千秋。
私はソワソワしている胸の内を隠して、「大丈夫」と小声で答えた。
……馬鹿みたいに千秋の事を意識してしまってる。
泣いた時に抱き締められても何とも思わなかったのに、ただ頭を乗せられただけで、どうしてこんなにも動揺しているんだろう……。
チラリと横目で千秋を見ると、真っ直ぐ前を向いて運転している綺麗な横顔が映った。
見慣れているはずのその顔に、心臓が小さく跳び跳ね、千秋が話している会話の内容がほとんど頭に入って来なくなった。

