「――そろそろ店に行こうか」
手首にある腕時計をチラリと見て、千秋は参考書をパタリと閉じた。
そして、閉じた参考書を持ってバーカウンターに向かうと、その奥にあるキッチンに入って行く。
私は筆記用具を筆箱にしまい、ドレスと化粧ポーチが入ってる鞄に筆箱を収めた。
――結局、冷めた雑炊は三口しか食べる事が出来なかった。
千秋から聞かされた春樹さんの悲しい過去が原因ではなくて、吐き気に襲われてしまった所為。
優しい千秋は「気にしないで」って、笑顔で言ってくれたけど……やっぱり申し訳なく思った。
「涼ちゃん、行くよ」
キッチンを出て、バーカウンターからお店の出入り口に向かって足を進める千秋が、未だボックス席に座ってる私にそう声を掛ける。

