「ユカリって、喧嘩で負けた事がなかったらしくてさ。勝負がつかなかった私の事気に入っちゃったんだ」

「……それも滅茶苦茶な話だな」

「そんでね? ユカリに“友達になろう”って言われて、断る理由もなかったから良いよって言ったんだけど……その後に酷い物見ちゃって」

「酷い物?」

「……うん。その場にいた不良達の一人が“決着つくまでやれよ”ってユカリに言ってさ。口を挟まれた事にキレたユカリが、その子の顔面を何度も壁に打ち付けたの」

「……」

「血だらけになって泣き喚いてるその子の髪の毛掴んで、ユカリは楽しそうに笑ってて……玩具で遊んでる子供みたいだった」


今思い出してもゾッとするあの光景。

殴られて歯が折れる人間を目の前で見るのは、後にも先にも、あの一度きりだと思う。