「手、痛くないか?」

半歩ほど遅れをとっていた私に顔を向け、心配そうな声を掛けてくる春樹さん。


「うん。大丈夫」

春樹さんの何気ない優しさに顔が綻び、ホワホワと幸せな気分に包まれた。


春樹さんはいつだって優しい。

こんなにも優しくしてもらって良いのかなって、そう思ってしまうくらいに優しい。


だから私は毎日幸せな気分に浸ってた。

そして少し――緊張感が薄れていたと思う。


……反対側の道で人混みの中、足を止めて私を真っ直ぐ見つめる二つの視線。


それに偶然気が付いた私は、


「嘘っ……」

喉の奥からか細い声を絞り出した。


これは浮かれ過ぎていた罰なんだろうか。

それとも、身から出た錆っていうやつなんだろうか。


嫉妬と憎悪が容易く伝わってくるその目で私を睨んでいたのは――…