靴がなくならなければ、春樹さんを待たせずに済んだのに。


そう思い、靴箱の前に差し掛かると、溜息を吐き出した私は自分の靴箱の列に恨めしい目を向け、


「……あれ?」

不意に視界の先に映った黒い物体に、思わず野太い声を漏らした。


「何だ? どうかしたか?」

「く……靴……宮沢、靴……」

「靴? 靴はもういいんじゃなかったのかよ?」

「上! 靴箱の上!」

「上? ……はぁ!?」

私と宮沢は二人して、口をポカンと開けたまま呆然とした。

――靴箱の上にちょこんと乗っかってる、私のローファーを見つめながら。


「……まじ有り得ねぇ。あんだけ探し回ったのに、このオチかよ」

数秒の間を空けて苦笑いを零した宮沢は、靴箱の上に手を伸ばし、ローファーを取って私に差し出してくれた。