何時の事だか忘れてしまったが、確かに覚えている。
空からトランプのカードみたいなモノが落ちてきて、私達が受け取って、それからが地獄。

先生はそのカードを取り上げて授業を放棄。
私達は勉強するでもなく、学校に閉じ込められた。
意外と快適な生活だ。生徒はめっきり減ってしまったし。
何故かって、彼らはカードを差し出して家で教育を受けることを選んだんだから。

今日も家からの便りは無し。
家書万金にあたる、ってこういうことなんだな。

「あ、いたいた。ヤマトー」
聞こえた声は居残り組の和谷中凛《ワヤナカ・リン》。
呼ばれたのは私、榊大和《サカキ・ヤマト》。
カードを渡すのを拒み、結局カードを奪われて軟禁されてる世間で言う負け組。
でもね、惨敗した兵は力を貯えて反撃するっていうじゃない?

「残ってんのヤマトとオレだけだってさー」

…まぁ、貯えてないんだがな!

「みんな条件飲んだんだ?」
「他の奴らからカード奪って先生に提供、これいい条件かなぁ」
「…まぁ、それなりだよな」
それで家に帰れるから。
確かに悪いとは言えない条件。

ま、それは負けた気がするから嫌なんだが。

「で、二人でどうするんだい」
「産んで増やす?」
すばらしい笑顔で顔をくい、と持ち上げる。
近い近い。
「和谷中は冗談が好きだな」
「あ、そう返す?」
心なしかしょんぼリン。
私じゃなかったら本気にしてたかも知れないぞ。

まぁ今の会話で分かっただろうが私、大和は女。で、和谷中は男。
で、二人ぼっち。

すごく危険だが何もないので期待してはいけないぞ。

「さて」
呟いて、空を見る。
小さな影。
落下するそれは手の平サイズが二枚、私と和谷中に。
「今日もまた、戦いが始まった」
空の声、からりと乾いた風。
ふわふわ雲は越えられない、飴の雨は存在しない。
「じゃ、いこか」
「うい」

二人の無謀な冒険者。
夏特有の乾いた日差しが二人の後をついて行く。