「お母さん、あの男の人は誰?」 
「お隣さん。引っ越してこられたんですって。」

母は顔色をかえるでもなく夕飯の支度をしながら答えた。体が丈夫でないらしく病気療養のためにこんな片田舎に越してきたらしい。歳は葉月より5歳ほど上だろうか。美しい男は狭山晶人と云うそうだ。

「なんでも小説家らしいわよ。」

ふうん、と気のない相づちを打つ。葉月にはあまり興味のないことだったし、晶人のことはその日のうちに忘れていた。