音を奏でて~放課後の音楽室~

「先生、旦那さんは?」


「うーん。今頃は、フランスかな」


みちる先生の旦那さんは、世界で活躍する指揮者。


「フランスか~私も行きたいな」


「あら、優音ちゃんの実力なら、留学だって出来るわよ」


「留学ってゆーか、遠くに行きたい。いつまでもこんな狭いところにいたくない」


いつまでもあの家にいたくない。


「今すぐ、どこかに行きたい」


私の存在なんか知らないどこかに行って、自由に過ごしたい。


「優音ちゃん、今日お家には一人だったの?」


「うんん。花音も、おばあちゃんも帰ってきてた」


「そっか」


みちる先生とは付き合いが長いから、家の事情もよく知ってる。


親がピアノの発表会に一度も来てくれてないことも知ってる。


「おいで、優音ちゃん」