「来ないからいいです」


小さく吐いた言葉に、先生がえっ?と聞き返す。


「でも後日だと先生に迷惑がかかるから、とりあえず面談してください。夏休みにも、三者面談はあるし」


「わかりました」


先生は小さく息を吐くと、資料に目を通した。


「清水さんの希望は、国立の音大のピアノ科ですね」


「はい」


「もう受ける大学は決めてますか?」


そう言われて、いくつか大学の名前を上げる。


「そうですか。成績から見て、試験は大丈夫だと思います。問題は、ピアノの技術ですね」


「実技試験ですか?」


「今上げた大学は、どこも実技試験に厳しいですからね」


「先生、詳しいですね」


「少しだけ」


そう言うと、内田先生の目がなんとなく悲しげにスッと細められた。