「好きって気持ちを、大切にしてください。そうすれば、きっといい音が出せます」


「はい」


「さあ、そろそろ帰りましょう。真っ暗になる前に」


「はい。先生、私のせいで帰るの遅くなってすみません」


「気にしないでください」


先生がスッと、ピアノから指をどかす。


それが合図のように、私はピアノを片づけ始めた。


「清水さんは、よくしゃべる子なんですね」


「えっ?」


「教室では、大人しいイメージがありましたから」


音楽室の鍵をかけながら、先生が私に話しかけてくる。


「真面目で責任感が強くて、なんでも簡単にやってしまう」


「そうですか?私はただ、与えられたことをしてるだけです」


薄明かりの階段を、先生と一緒に下りる。


学校に残ってる生徒はほとんどいなくて、先生と私の足音が階段中に響いていた。