そこには、こう書いてあった。


『あの子に、もう一度ピアノを弾いて欲しい。仁に教えたかったのは、ピアノの楽しさだったのに、いつの間にか忘れてたみたいなの。いつかまた、仁のピアノが聞きたいな。仁も、仁のピアノも大好きだから。』


「それ、事故に会う前の日の日付になってたんだ」


仁に紙を返すと、綺麗に折りたたんでポケットにしまった。


「あんなに苦しんでたのに、この文章読んだら一気に吹っ飛んだよ」


「うん」


仁の腕に自分の腕を絡める。


「俺も優音も、ちゃんと愛されてた」


「うん」


そう、私たちはちゃんと愛されてた。


それに気づくのが、少し遅くなってしまったけど。


でもそれが分かったことで、心の隙間が埋まったの。


そして私たちは、強くなった。


「優音」


「ん?」