「だから言っただろ。指怪我したら大変だからやめさない」


先生がポンポンと私の頭をなでる。


それから床に座り込んでる私を、先生が後ろから抱きしめた。


「優音に出会わなかったら、俺ずっとピアノから遠ざかってたんだろうな」


「それは私も同じだよ。ずっといい子ちゃんでいたと思う」


きっと先生に出会わなければ、大学に行ってピアノの先生になるって夢をとっくに諦めてたと思う。


親に嫌われないように、小さくなって生活してたと思う。


本気で親に言いたいこと言わなかったと思う。


「先生に出会えてよかった」


「俺も」


顔を上げると、そっとキスを落とされる。


「名前、呼んで」


「名前?」


「仁って」


「・・・仁」