部屋中に響いていた静かなピアノの音が、一瞬でピタリと鳴りやんだ。


これで何回目だろう?


短く息を吐いて、私はコーヒーを淹れる為にキッチンに向かった。


週末、相変わらず先生の家に入り浸ってる私。


あの日、家を飛び出したからといって、何かが変わったわけじゃなかった。


ただ少しだけ、お母さんが私に話しかけるようになった気がする。


「先生、コーヒー」


「ああ。ありがと」


もうこの家でコーヒーを淹れるのも、ご飯を作るのもだんだん慣れてきた。


家で料理をするのはつまらないけど、ここで料理をするのは楽しい。


だって、おいしいって言って食べてくれる人がいるから。


「おいしい」


「よかった」


コーヒーに口をつけた先生は、ホッと息を吐く。


それからカップをピアノの上に置いて、鍵盤を見つめた。