「ピアノ、ちゃんと調律したから弾きにおいで」


「うん」


家に帰れば、私はそこにいない存在。


でも今は、ちゃんと私はここに存在する。


それがすごく嬉しい。


「ベートーベンが聞きたい」


それだけ言うと、先生は席に戻って行った。


それからしばらく、私はピアノを弾き続けた。


「ねえ、先生」


「ん?」


「誰か聞いてくれる人がいるって、すごく嬉しいね」


「ああ」


これからも私のピアノ、真剣に聞いてくれる人いるかな?


ピアノを見つめて、ふとそんなことを思った。


「どうした?」