「ほんとに君は優しい子だね」


「優しくないです」


「そう?」


エレベーターを下りて、車に乗り込む。


「ピアノ、ちゃんと調律しておくよ」


「はい」


「また君の音が聞きたい」


「はい。私も、先生の音が聞きたいです」


その言葉に、先生は寂しそうに笑うだけだった。


「先生、ピアノ好きですか?」


「ああ」


「じゃあ、一緒ですね」


「そうだな」


同じようなものを抱えてるからこそ、分かることもある。


だから私たちは、お互いのことが気になったんだ。