音を奏でて~放課後の音楽室~

「俺の親はね、世界中飛び回ってて忙しい人たちだった」


なんとなく、想像がつく。


だって、世界的に有名な指揮者とピアニストだもん。


「それでも俺は、愛されてた。いや、愛されてると思ってたんだ」


「思ってた?」


「ピアノを弾けば喜んでくれて、コンクールで賞を取れば褒めてくれて」


先生がホッと息を吐き出す。


「上手くなればなるほど喜んでくれるから、俺は勘違いをしてたんだ」


「勘違い?」


「音楽科がある高校に進学したんだ。ピアノを専攻していた。でも高2のとき、下校途中トラックにひかれそうになってる女の子を助けた」


「それが、事故?」


「そう」


また先生が、息を吐く。


「女の子は半日で意識を取り戻して、俺も1日で意識を取り戻した」


先生は生きてて今私の前にいるのに、それでも死って言葉が出なくてなんだかホッとした。