音を奏でて~放課後の音楽室~

空を見上げて、ふうと息を吐いた。


「家、出ます。ここから、遠くに」


一回、人生をリセットするの。


私のことを全く知らない人の中に混じって、最初から人生をやり直すの。


「だから先生。就職先、一緒に考えてください」


「ほんとにそれでいいんだね?」


「はい。もう決めました」


「そっか」


それから家の近くまで、お互い無言だった。


「じゃあ、ありがとうございました」


「うん。また学校で」


「はい」


ペコリと頭を下げて、玄関に鍵をさした。


「ただいま」


返事がないことは分かってるけど、つい癖で言ってしまう。