ラグナレク

目標は依然として発砲を続けていた。
しかし、敵の銃弾は《ジャッジマン》の胸の前で構えられた粒子が形成した剣に触れると同時に、どろりと溶解しその姿を失くす。
僕は《ジャッジマン》の体躯を捩らせ、ブレードを天へと掲げる。ブレードは火花を散らしながら、獲物の喉笛を喰いちぎるのを今や遅しと待ち構えている。
《ジャッジマン》は、ブレードを掲げたその手を眼前の最期の目標に向け力強く打ち下ろした。




(―――終りだ―――!)




迷い無く振り下ろされた剣が敵を切り裂く―――その瞬間。




―――ずきん。
頭を駆け巡る鈍い痛み。
僕は堪え難い苦痛に表情を歪め、コクピットから手を離し、その手で痛む場所を押さえ付けた。








「………がっ、ぐあぁぁああっ………!」








痛みの余りに僕は呻き声を漏らす。
頭を押さえようが押さえまいがその痛みは収まる事はなかったが、やりどころのない両腕は本能的に頭を抱えていた。

急にその動きを停めた機体に向け、《インプ》はここぞとばかりに全装備を展開し、一斉射撃を開始した。銃弾が自機に当たる震動が、余計に頭痛を強める。
苛立ちと苦痛を表情に浮かべ、操縦用のレバーを握ろうとしてもその手に力は無い。








「何だって言うんだ………くそぉっ!」








僕は怒号を上げ、だらしなくうなだれた両腕に無理矢理力を篭める。

―――負けるものか。
意地を張り、その意地を強固な決意として全身を奮い起たせる。しかし―――。





再度、一際強い痛みが、脳奬を駆け巡った。まるで脳と脊髄とを繋ぎ止めている神経が無理矢理に切断されたかのような苦痛。
決意は痛みの前に脆くも崩れ落ち、四肢はあらぬ方向へと放られた。抵抗する術を持たない僕はただ痛みに従うより他がない。

続いている銃撃は確実に《ジャッジマン》のお世辞にも堅固とは言えない装甲を削ってゆく。
自機に弾が命中する度に、コクピットが激しく揺れる。乗り物酔いをした時にも近い吐き気を催していると、僕の頭上に設置されていたランプが煌々と光り始めた。それとほぼ時を同じくし、コクピット内部に耳鳴りがするくらいの大音量でブザーが鳴り響いた。