ラグナレク

―――ラスト1機、か。
僕はそんな事をぼんやりと頭に浮かべながら、両の腕に装備された粒子の刃を構え直し、機体を跳躍させる。目標は当然―――残存する敵機。このままタイムアップで終了させる気など、今の僕には毛頭ない。

宙に舞い両手を大きく広げると、《ジャッジマン》は獲物を狙う鷹のごとく目標に向けて猛突進を開始した。
ブースタは派手に火花を散らし、巨大な機械のその体躯の舞うスピードを途方もなく加速してゆく。敵は依然としてこちらに気がついてはいない。
僕は更に機体の速度を上げることで、より地面へと近付く。70―――60―――50。僕はそこでようやく、地面が近いという事を示すアラームを耳にした。

コクピットに響き渡るアラームを聞き、僕は地へと下降させていた機体を正面に突き進ませるべく、レバーを思い切りおしこんだ。前屈姿勢気味だった機体はブースタの調整により宙に屹立し、再度加速を始める。
少しずつ下降してゆく機体は、その間に目標との距離をぐいぐいと詰めていく。《ジャッジマン》が着陸体制に入る頃には、敵機を自身の眼で確認出来る程に僕とそれは肉薄していた。
着陸の際に出力を弱められたブースタは、機体が地を蹴ったと同時に再三粒子を撒き散らす。コクピットにまで響く爆音は、まるで血に餓えた獣の唸り声のようにけたたましい。
背後から迫る野獣の気配を察したのか、《インプ》は覚束ない足取りで旋回する。

だが―――それも、もう遅い。
突撃を続けながら、左右に展開していたブレードを身体の正面へゆらりと運ぶ。敵を切り刻む準備をし、慌てて発砲を開始した敵機の弾を避け、斬る。
そうしているうちに、《ジャッジマン》はあっという間に《インプ》の脆い身体を剣で破壊することの出来る距離まで敵機と接近していた。