ラグナレク

僕は瞬きをすることすら忘れ、ひたすらに目標を睨んだ。口の中は渇ききり、敵を見据えた双眸にきりきりと痛みが走る。―――カウントが、『0』へと近づく。







『―――3―――2―――1―――』








告げられてゆく数字は、耳朶にぼんやりとした響きを残す。
一瞬、世界が止まったかのような静寂の後―――。








『―――0』








無感情なカウントが『スタート』を告げると同時に、僕は機体をほぼ倒しそうになりながら前方へと疾駆する。
メインカメラと地面が触れ合うかというタイミングで、背に付属されたメインブースタを、機体が地面に接触しないようスライドさせながら、豪快にふかす。無理矢理に地面から離された《ジャッジマン》のバランスを崩さないよう気をつけながら、突撃型ライフル銃―――正式名《WHITE EAGLE》を展開する。
目標は急に上昇した僕の機体を見失い、僕の約10m下で右往左往していた。目標に銃口を向け、引き金に指を添えると、今度は空に向けてブースタを出力―――僕は地へと猛スピードで落ちてゆく。
ブースタ音に気づいたのか、《インプ》は僕のいる上方を確認すべくメインカメラを動かすが―――もう遅い。
上を見ようとしていたメインカメラに光る一つの光源へと、僕は銃弾を撃ち込んだ。結果は―――命中。暗闇の世界に取り残された《インプ》は目に見えて混乱し、ガトリングを無茶苦茶に乱射した。僕は飛んでくる銃弾を避けながら、もう一度引き金を引く。銃口が火を噴き、巨大な鉛弾は、敵のコア―――要するにコクピットのことだ―――を無慈悲に貫いた。静かに軋みをあげ、目標は活動を停止した。




―――これで、失格はなし、だな。
僕がそう安心し、息をついていると―――。








―――ガガガガガ!!
僕は背後から響いた銃声に咄嗟に反応し、身をよじらせながら地を滑るように移動した。どうにか弾は避けたようで、機体に一切損傷はなかった。








「く………やるっていうなら………っ!」








僕は狙撃を続ける敵を索敵し、発見すると同時に怒号を発した。