『―――ここまで来られておいて残念だろうとは思われますが、その場合、対象の受験者は失格、ということにさせていただきます』
「………了解」
僕は素っ気なく返事をし、討つべき敵の方向を見遣った。《ジャッジマン》に装備されているライフルは突撃型であるため、精密な照準機能を搭載してはいない。その為僕は、メインカメラに映る目標の姿へと、目測で銃口を向ける形を取ることとなった。陽光に照らされたライフルが、黒く鈍い光を反射する。
(こんなアバウトな狙いで本当に大丈夫なのか………?動かなければまだしも―――)
目標は的じゃない。《敵》なのだ。
《敵》は動くし、戦う。今はバーチャル世界であるからその心配は無いが、現実においては、殺される事だってあるんだ―――。
―――そう考えた途端、身体中に戦慄が駆け巡り、何とも表しがたい感情が胸の大半を占める。僕は体が強張ってゆくのを確かに感じ、脳の活動は緩み、手足は頑なに動こうとしない。
僕は体を無理矢理ほぐすかのように、目を固く閉じ、溜め込まれていた息を一気に吐いた。そして再び、吐いてしまった分を吸い戻す意識を持ちながら大きく息を吸う。酸欠状態にあった脳は凄まじい速度で回転を始め、手足は思うように動く。僕は体の調子を確認してからより固く目を閉じ、胸に手を置いた。深呼吸を続けながら、僕は思考を働かせ、一つの言葉を胸の中で繰り返す。
―――いける、大丈夫だ、と。
自己暗示を重ねた頭は澄んでいき、クリアに敵の姿を捉える。
先ずは―――あいつだ。
メインカメラに表示された、自機と敵機との間の距離が最も短い―――約500M程度である―――目標に向けてライフルを構える。今や、銃を握るこの手に、迷いは存在しない。存在(あ)るものは敵を討ち払う力………或いは、決意。
僕の視線には目標しか映っておらず、眼球の奥が熱くたぎっている。鼓膜は試験開始の言葉を待ち、感覚は敏感過ぎるまでに研ぎ澄まされていくのを感じた。
―――そして。
僕の頭は、いよいよ始まったカウントダウンの音のみを脳内へと受信させ、他の余計な五感を全てシャットアウトした。カウントが『0(ゼロ)』に近づく度に、目標を見据えた眼球へと疼痛を引き起こす。
「………了解」
僕は素っ気なく返事をし、討つべき敵の方向を見遣った。《ジャッジマン》に装備されているライフルは突撃型であるため、精密な照準機能を搭載してはいない。その為僕は、メインカメラに映る目標の姿へと、目測で銃口を向ける形を取ることとなった。陽光に照らされたライフルが、黒く鈍い光を反射する。
(こんなアバウトな狙いで本当に大丈夫なのか………?動かなければまだしも―――)
目標は的じゃない。《敵》なのだ。
《敵》は動くし、戦う。今はバーチャル世界であるからその心配は無いが、現実においては、殺される事だってあるんだ―――。
―――そう考えた途端、身体中に戦慄が駆け巡り、何とも表しがたい感情が胸の大半を占める。僕は体が強張ってゆくのを確かに感じ、脳の活動は緩み、手足は頑なに動こうとしない。
僕は体を無理矢理ほぐすかのように、目を固く閉じ、溜め込まれていた息を一気に吐いた。そして再び、吐いてしまった分を吸い戻す意識を持ちながら大きく息を吸う。酸欠状態にあった脳は凄まじい速度で回転を始め、手足は思うように動く。僕は体の調子を確認してからより固く目を閉じ、胸に手を置いた。深呼吸を続けながら、僕は思考を働かせ、一つの言葉を胸の中で繰り返す。
―――いける、大丈夫だ、と。
自己暗示を重ねた頭は澄んでいき、クリアに敵の姿を捉える。
先ずは―――あいつだ。
メインカメラに表示された、自機と敵機との間の距離が最も短い―――約500M程度である―――目標に向けてライフルを構える。今や、銃を握るこの手に、迷いは存在しない。存在(あ)るものは敵を討ち払う力………或いは、決意。
僕の視線には目標しか映っておらず、眼球の奥が熱くたぎっている。鼓膜は試験開始の言葉を待ち、感覚は敏感過ぎるまでに研ぎ澄まされていくのを感じた。
―――そして。
僕の頭は、いよいよ始まったカウントダウンの音のみを脳内へと受信させ、他の余計な五感を全てシャットアウトした。カウントが『0(ゼロ)』に近づく度に、目標を見据えた眼球へと疼痛を引き起こす。

