ラグナレク

『―――データの送信が完了しました。調子は如何ですか?』








僕はようやく痛みが落ち着いてきた頭から手を離しながら、「最悪さ」と誰に聞こえるでもなく毒づいた。
うなだれていた僕に突如、試しに機体を動かしてみろ、という意味の言葉をかけられた。しかし、いくら情報を脳に詰め込まれたとは言っても、僕は今までに『自らで考え、行動するというループを繰り返す』というケース以外では知識を得た事が無かったため、当然何をどうしてよいものか解らずに、僕は非常に戸惑った。あの女性から、何かしら助けとなるアドバイスがかかりそうな気配は一切無い。放っておいても話が進む気配はなかったため、取り敢えず僕は念じるかのように、「前へ進みたい」と強く念ってみることにした。―――すると。








「………おっ、動いた、動いている!確かに、前に進んでいるぞ!」








僕は喜びのあまり、柄にもなく歓喜の声を上げた。手はいつの間にか二本のレバーの元にあり、強くレバーを握ったその手は、機体を前方へ押し出すべく、どうやら機体の前後左右の移動に使用するらしいレバーを前へと傾けていた。




―――どうやら、こうしたい、ああしたいと強く念じてみたのは正解らしい。強力な思念が体中を駆け巡り、脳に蓄積されたその思念に関する知識が神経へと伝わり、行動となる。まだ若干は、詰め込められる分だけ詰め込まれた経験の無い知識という物に対して戸惑う点が有りはするが、何とかなりそうな気がしていた。
何となく高揚した気持ちを抑え切れず、僕は続けてブースターを用いた移動や、簡易な武器の操作、機体の細かい動きなどを、試しに行ってみた。




腕を振ったり、脚を曲げたりして遊んでいた所で、やっとあの女性の声が耳に入った。