ラグナレク

「―――ここは―――?」








僕は―――正確には、僕が今搭乗しているであろう機体の目線からだが―――何も無い空間を見渡す。ぐるりと一回転してみたが、何一つおかしな物は見当たらない。








「………なんだ?何も無いじゃないか―――」








僕は一人ぼやいてみる。ぼやいてみたところで、何も変わらないだろうが―――と思っていると、突如、頭に女性の高い声が響いた。その音は、耳から聞こえてくると言うよりも脳内に直接叩きつけられるような、何処かしら不愉快なものだった。
感情の篭っていない機会音で構成された声は、チュートリアルについての説明を始めだした。








『今から、チュートリアルを開始します。まず、機体の操縦方法です。―――これについては、ここで一から説明するには時間が足りないと判断されたため、今から貴方の脳へ機体の操作方法などの基本的な情報を、直接流しこみます』

「脳に、直接………?―――うわっ!?」








僕の頭に、違和感が走る。
それは―――そう、まるで後頭部に細い針を刺されたような違和感だ。決して痛い訳ではない。恐らく、痛くなくなるような処置を針に施しているのだろう。
僕は頭に針を刺された為に身動きを取れず、じっと押し黙る事を強要された。
―――暫くすると、黙っていた僕の脳に、再び甲高い機械音声が響いた。








『データ送信準備完了。―――同期、開始』








女性の声は、そう言い切った途端にぶつりと切断された。………正確に言えば切断された訳ではないが、僕の脳に起きた異常事態の為に、声を聞き取る余裕がなくなってしまったのだ。

―――頭に走る、澱んだ痛み。頭だけを思い切り振り回されているかのような、そんな不快感が僕を襲った。
吐き気を催す痛みは、数十秒間もの間続いたかと思うと、急激に和らいでいった。『同期終了』という声と共に、頭からは針がぶつりと抜けた。やはり痛みはなかったが、何とも言えない心地の悪さに、僕は顔をしかめた。
未だぐらぐらと揺れる視界は、僕を余計に気持ち悪くさせた。僕は目をつぶり、違和感のある頭を両手で庇うように覆った。だがしかし、そんな苦しむ僕のことなど気にも留めないかのように、感情の篭っていない声で彼女は再び話を始めた。