ラグナレク

「全員、揃ったようだね」








僕がバリー達の近くへ歩み寄ると、先程とはまた別の上官がそう言った。受験者は上官の言葉に対して少しも反応を示すことなく、岩のように固くなりきっていたため上官は、大丈夫だろうか、と非常に心配そうな顔をした。上官は凍てついたこの空気を振り払おうとするかのごとく大きく咳ばらいし、話を続ける。








「………えー、では今から、シミュレーターにおける実戦テストを開始する。えー、しかしその前にまず、機体操作のチュートリアルを行う。えー、では各自、指定されたシミュレーターに座りたまえ」








僕達三人は、女性の上官に連れられて、横に三つ並んだシミュレーターに座らされた。僕が一番左、クレイが中央、バリーが右だ。シミュレーターに座ると、バリーが身を乗り出して話しかけてきた。








「なあ、さっきの上官、かなり喋り下手だったよな。『えー』って、何回も言ってたぜ」

「………何かと思えば、そんなにどうでもいいこと?お気楽な頭した人は、楽でいいわね。羨ましいわ」

「いやあ………照れるぜ」

「褒めてなんかいないわよ」








クレイがぴしゃりとそう言ってのけた。バリーはそれに圧倒されて、ぶつぶつ文句を言いながらシミュレーターの機器を体に装着し始めた。
僕は苦笑しながら、ゴーグルのような物が取り付けられたヘルメットを被る。横目で隣を見ると、クレイは既にチュートリアルを始めているらしく、操縦用のレバーを握った手がせわしなく動いている。しかし、その隣のバリーに関しては、未だ体をシートに固定するシートベルトを装着するのに苦戦していた。

ヘルメットを被り、右の耳辺りにある電源のスイッチを押す。途端に、ゴーグルのような部分に周りの風景が映らなくなり、光が広がる。僕は光の眩しさに顔をしかめながら、レバーの感触を確かめる。不思議と、以前にも触った事があっただろうかと思うくらい、違和感を感じなかった。
暫くの間、レバーをいじったり、トリガーを引いたりして遊んでいると、急に僕の目の前に真っ白で何も無い、ただただ異常なまでにだだっ広い空間が拡がった。