「―――着いたみたいね。ここよ、この扉の奥。………時間には、まだ余裕があるみたいね。よかったわね、バリー?」

「………」








クレイの発した言葉に対して物言おうとする姿勢さえ見せることなく、バリーは黙りこくる。今でこそどうにか自分の足で歩いてはいるが、ここに来るまでは本当に酷かった。普通なら一分もあれば充分な所を、全く歩こうとしない彼を僕達二人が必死に運んでいたため、辛い上に倍以上の時間がかかってしまうという最悪な結果に終わってしまった。特に、階段は災難で、派手に転んでしまったのだ。―――まあショックのおかげか、その後すぐにバリーが自分で立ち上がったので、結果的には良かったのかもしれないが。








「まあまあ、クレイ。バリーだって悪気があった訳ではないんだ………許してあげなよ」

「私は、全く怒ってなどいないけれど?ただ、足が元に戻って良かったわね~って言ってあげただけよ。ねえ、バリー?」








皮肉たっぷりに言う彼女の目線の先には、立ち上がったは良いものの、未だに子犬の様に震えているバリーの足があった。どうやら、バリーの肝っ玉というものは、存外に小さいらしかった。
仕方ないな、と僕は溜息を吐いてから、バリーの肩を叩いた。振り向いたその顔は、大きな体にはあまりにも似合わない不安そうな表情を浮かべていた。僕はにこりと微笑み、優しく語りかける。








「リラックスしなよ、バリー。そんな状態じゃあ、出来ることも出来やしない。君は、『ハーモニア』になるんだろう?だったら、こんなところでビクビクしてる場合じゃないよ」

「レイ………でも………でも俺………足を引っ張るかも………」

「それは誰でも一緒さ。僕だってクレイだって、表には出ないだけで凄く緊張してる。―――それに、皆まだ一度も『Hi-MAT』を操縦したことはないんだ………バリーが天才的に上手いって事も有り得るだろう?」








彼はその一言を聴くと、耳をぴくりと動かした。バリーは急に何かを想像するように顎に手を添えた。