亀のようにのろのろと歩いてゆくバリーを後ろから眺めていた僕に、クレイがそっと耳打ちした。








「―――貴方の相方、とても緊張しているようだけれど」

「………みたいだね。クレイは?」

「私は大丈夫………と言ったなら、嘘になるわね。けれど、人並みの行動なら出来るから安心して構わないわ」








クレイがバリーを見ながらくすりと笑う。僕達が話している間に、バリーは一メートルと前へ進んでいなかった。








「―――ところで、レイ。貴方は?貴方は、緊張しているの?」

「それは勿論―――凄く、ね」

「………ふうん、どれだけ才能がある人間だろうと、緊張するものはするのね………あらバリー、何しているの?」








彼女は脚が縺れてその場に転げたバリーを見て、少しも心配そうな様子を見せずにそう言った。彼は机に寄りかかりながら、どうにか立ち上がるので一杯一杯のようだった。








「―――全く、情けないなあ………。悪いけれどクレイ、手を貸してくれないかな?」

「それは構わないけれど―――あちらに連れていって役に立つのかしら、これは」








僕がバリーに近寄り肩を貸すと、クレイは頼りない様子でヨロヨロとしているバリーを一瞥し、そう言った。
バリーは少し不服そうにして、その事に対して何か言い返そうとしたようだったが、何を言っても惨めなだけだと思ったのか、口をもごもごとさせながら俯いた。








「あちらに向かう途中で元に戻るさ、きっと。―――さあ、左肩をよろしく」








クレイは少し悩むそぶりを見せた後で、渋々と「わかったわ」と言い、バリーの左肩のすぐ隣にしゃがみ込み、自らの右腕をその下に入れ、僕と同時に立ち上がった。バリーが申し訳なさそうにすまないな、と呟いた。








「バリーが早く元に戻ってくれるなら、何でもするさ。―――それじゃ、そろそろ行かないと。時間に遅れて失格なんて、話にならないからね」








二人はこくり、と頷いた。僕とクレイはしっかりとバリーの肩を抱き、ゆっくりと歩き出す。僕達三人が並びながら出た教室は、先程まで賑やいでいたのが嘘であったかのように、ただただ沈黙を守り続けていた。