蝉時雨を追いかけて

「言ったじゃない、証拠はないって。でも、見せたかったのはイジメのことじゃないわ。この悪口が始まるきっかけになった文章よ」


 おかっぱがパソコンをこちょこちょいじって、おれにその場所を見せてきた。


『HN.NATTO

テニス部の美人マネージャー北村麗華、浮気発覚!

あの女は佐々木拓馬とかいう男と付き合ってたんだが、今日の昼間、ファミレスで別の男と会ってやがった!

あいつが男好きの淫乱女ってのは本当みたいだな。

これを見てる奴ら、食われちまうから、あの女には近づかない方がいいぞ(笑)』


「これがなんだよ」


 おかっぱがパソコンの画面を指差した。パソコンの画面にベットリと脂がついている。

あとで殺菌消毒しなくては。


「見て、このハンドルネーム」


「NATTO? ……まさか」


「納豆って読むと思わない? この学校で納豆といえば、納豆ちゃんくらいでしょ?」


「それで、調べるために茨木さんに近づいたってことか?」


「そういうことよ。拓海のために尽くしてるって感じィ?」


「冗談は顔と頭と臭いとしゃべり方だけにしておけよ」


「しゃべり方は普通よ」とありえないセリフをはいて、おかっぱは立ち上がった。