蝉時雨を追いかけて

「ん?」


「マネージャーを気に入ってるのは拓海だけじゃない。ライバルは多いわよ。ほとんどのヤツが好意を抱いてたみたいだもの」


 おれは大きくうなずく。それくらいはおれでもわかるという合図に。

そのとき、おれたちの横を部長の拓馬が追い抜いていった。

まだ一周目だというのに、もう周回遅れにされてしまったらしい。

おれたちの前を走っていた一年生の女子が、拓馬の背中を指してキャーキャーわめいていた。

拓馬もまた、北村麗華と同じように、人を魅了する美貌を誇っているのだ。


「それに、ほっとけば最強の敵が現れちまうわよ」


 おかっぱは拓馬の背中を見ていた。その背中はあっという間に小さくなり、消えていく。


 勝てないな、と思った。


 いつの間にこんなにも差がついてしまったのだろう。一瞬考えて、すぐ気が付いた。

差はきっと、最初からあったのだ。ただ、おれが気づいていなかっただけで。