蝉時雨を追いかけて

 ふたりが動き出したことで、他の部員も散り、真面目に練習をはじめた。

おれは壊れかけたベンチに座り、北村麗華も隣に座らせた。


「拓海さん、ありがとうございます」


 北村麗華は小さい声で微笑んだが、その体は震えていた。

きっと彼女は、ずっと怯えていたんだ。

わけのわからない奴らにしつこく話しかけられ、いままで守ってくれていた拓馬もいない。

不安を押し殺して、必死に耐えていたんだ。

おれはしばらく、横に座って彼女を見つめていた。

おれにできることは、北村麗華を守り、少しでも安心してもらうことだけだった。