蝉時雨を追いかけて

「待てよ」


 自分でも驚くほど、低い声が出た。田端と荻窪が振り向いた。


「おまえら、女に叩かれたから部活辞めんのか? 情けない奴らだな」


「はっはっは、センパァイ、耳聞こえないんすかー? つまんねーから辞めるっつったっしょ? なあ、荻窪」


「…………………………うん」


「それなら、なんでいまなんだ? つまらないってだけの理由なら、別にいまじゃなくた
っていいだろう」


「じゃあ逆に、今だって良くないっすか? 関係ないっしょ。それにィ、才能のない先輩にとってはイイことじゃないっすか。俺っちたち、レギュラー確定のふたりが辞めんだから。なあ、荻窪」


「…………………………うん」


 おれの心臓が、揺れた。慣れない声としゃべり方のせいか、鼓動がいつもより速い。

自分の体が、自分のものではないようだ。

おれというロボットを、おれの頭が勝手に操縦しているような、そんな感覚。


「ふざけたこと言ってんじゃねえよ」


 低い声が、おれの声帯を通じて、口から発せられた。