「おれにもわからないよ。突然部屋にこもって出てこないんだ」


「そんな……」


「そういえば、今、拓馬がタバコを吸ってたのも見たよ」


「拓馬くんがタバコを?」


「ああ。そうみたいだな」


 おれが最低なことを言ってるのはわかってる。

それでもおれは……。


「拓馬くんに会わせてもらえませんか?」


「それは無理だ。出てくる前に拓馬に聞いたら、会いたくないって言ってた」


 うそだ。本当は拓馬に北村麗華がきたことを伝えてもいない。


「そうですか、わかりました。またきます」


 北村麗華はおれに作り笑顔を見せると、くるりと振り向いた。

水色の傘を差した後ろ姿が、少しずつ遠ざかる。

実際の距離以上に離れて感じるのは気のせいだろうか。


 おれは空を見上げた。

止む気配のない雨が、だんだん強くなっているような気がした。