蝉時雨を追いかけて

 

***


「拓馬くん、どうかしたんですか?」


 全速力で玄関へ向かい、扉を開けた瞬間、北村麗華の第一声がそれだった。


「拓馬くん、学校を休んでいたみたいで、電話をしてもメールを送っても返事がないんです」


「ああ、そうか」


 やはり拓馬は、本気で北村麗華に近づかないつもりなんだ。

たしかにおれにとってはチャンスなのかもしれないが、北村麗華の悲しそうな顔を見るのはつらい。

拓馬と北村麗華がまた元に戻れば、彼女は笑顔になってくれるのだろう。

だがおれは、それでいいのだろうか。


「ねえ、拓海さん。拓馬くんになにかあったんですか?」


 彼女にとって、一番は拓馬。それはきっと変わらない。

北村麗華が浮気だなんて、ありえない話だ。おれは……。