蝉時雨を追いかけて

「相変わらず鋭いな」


 おかっぱは驚くほど、誰が誰を好きとか、そういうことにすぐ気付く。

「表情とか目線を見てればだいだいわかるわよ」と言っていたのを聞いたことがあるが、おれにはさっぱりわからなかった。

ブサイクだけど、観察力だけはあるらしい。


「オレがスルドイんじゃなくて、あんたがわかりやすすぎるのよ。自己紹介の間、ずっとあの子を見つめてたじゃない。それでわからんわけがないわよ」


「なるほど。そしておかっぱはおれを見つめていたわけか」


「そうよ、うれしいでしょ? ウフッ」


「そうね。気持ち悪くて吐いちゃいそう」


 吐くしぐさをしてから、また走り出した。坂を上っている間は、お互いに言葉を交わすことはない。

上りきったところで、おかっぱがまた話しかけてきた。


「あの子と付き合いたいんなら、早めに勝負をしかけないとダメでしょうね」