蝉時雨を追いかけて

 

***


 あの試合が原因だったのか、次の日拓馬は学校を休んだ。

今まで一度も休んだことはなかったのだ。試合でのショックがよほど大きかったのだろう。

おれに負けたのがくやしかったのか、北村麗華とおれが浮気しているのが嫌だったのか、それとも他になにか理由があったのか。


 おれは窓を開け空を見上げた。5月の夜空は雲に覆われて、パラパラと雨が降っていた。

もう梅雨入りが近いのかも知れない。


 右側から、窓を開ける音がした。拓馬の部屋だ。

そちらを見ると、顔を覗かせた拓馬と目が合った。

口になにか、白いものをくわえている。

拓馬は慌てて顔を引っ込め、窓を閉めた。

顔があった位置には、白い煙が雨に混じり、揺れていた。

発生元を失った煙は、ゆらりと消えていく。


 タバコだ。


 拓馬は学校を休んで、タバコに手を出していた。


「拓海さん」


 突然、下から声をかけられた。部屋のすぐ下には玄関がある。

北村麗華が、そこに立っていた。